「500万円要件」は工事の金額の話ではありません
建設業許可で「500万円」と聞くと、1件の請負金額が500万円未満の工事(建築一式工事以外)なら許可がなくても請け負えるという決まりを思い浮かべる方が多いと思います。そちらは許可が要るかどうかの線引きで、500万円ルールと軽微な工事のページで解説しています。
この記事で扱うのは、許可を受けるための要件のひとつ「財産的基礎・金銭的信用」です。請け負った工事をやり遂げるだけの資金の裏付けがあるかを見る要件で、一般建設業と特定建設業とで基準が大きく異なります。ここでは一般建設業を中心に説明し、特定建設業は最後に要点だけ触れます。
3つのうちどれか1つで足ります
大阪府の手引き(令和8年3月版)では、一般建設業は申請の時点で次のどれかにあてはまれば、倒産することが明白な場合を除いてこの要件を満たすものとして扱われます。
- ① 直前の決算で自己資本が500万円以上……決算書の貸借対照表で確認します。
- ② 預金残高証明書で500万円以上の資金調達能力を示せる……金融機関が発行する残高証明書で、残高日が申請日前4週間以内のものに限ります。
- ③ 許可を受けて直前5年間継続して営業した実績がある……5年目の更新申請は、この基準を満たすものとみなされます。
3つすべてではなく、どれか1つで足ります。これから初めて許可を取る場合は①か②のどちらかです。自己資本が500万円に届いていなくても、②の残高証明書で示せれば要件を満たします。決算書の純資産がマイナス(債務超過)でも、倒産することが明白でなければ②で要件を満たせます。直前の決算書で①を満たしていれば、口座に500万円がなくても残高証明書は要りません。まずは直前の決算書を確かめるところから始めます。
自己資本500万円とは?決算書のどこを見るか
自己資本は、会社(法人)の場合は貸借対照表の「純資産」の額です。決算書の貸借対照表で「純資産の部」の合計、つまり純資産合計の金額を見てください。この金額が500万円以上なら①で要件を満たします。
よく混同されるのが資本金です。資本金が少なくても利益を積み重ねてきた会社は、純資産が500万円を超えていることがあります。反対に資本金が500万円あっても、赤字が続いて純資産が500万円を下回っていることもあります。一般建設業で見るのは資本金ではなく自己資本(純資産)です。
個人事業主の場合
個人事業の自己資本は、貸借対照表の期首資本金・事業主借勘定・事業主利益の合計から事業主貸勘定を差し引き、負債の部に計上している利益留保性の引当金・準備金を加えた額です。計算の元が貸借対照表なので、手引きでも個人の確認書類に貸借対照表が含まれています。確定申告で貸借対照表を作っていない場合は、①で示せるかを先に確かめ、難しければ②の残高証明書で示します。一人親方の許可の全体像は一人親方でも建設業許可は取れる?のページで解説しています。
確認に使う書類
1期目以降の決算を終えて確定申告の期限が過ぎている場合は、申請の直前の決算について次の書類で確認します。
- 法人……法人税の確定申告書の別表一(税務署の受付印のあるもの)と決算報告書
- 個人……所得税の確定申告書の第一表・第二表(税務署の受付印のあるもの)と、青色申告決算書または収支内訳書、貸借対照表
税務署の受付印は、令和7年以降の申告分については不要とされています。電子申告の場合は税務署の受信通知で確認します。このほか申請書には、建設業法で定められた様式の財務諸表を別に作って付けます。税務署に出した決算報告書で代えることはできません。
設立・開業したばかりの場合
まだ最初の決算を迎えていない会社は、設立時の開始貸借対照表で自己資本を確認します。手引きの記載例には、資本金500万円で設立した会社の開始貸借対照表(現金500万円・資本金500万円)が載っています。資本金500万円以上で設立した会社なら、この開始貸借対照表で①を満たせます。500万円未満で設立した場合は、②の残高証明書で示します。
開業したばかりの個人事業主は、開始貸借対照表に加えて②の預金残高証明書も確認書類とされています。個人で始めたばかりの場合は、残高証明書を用意する前提で準備を進めてください。
残高証明書の3つの注意点
自己資本が500万円に届かないときや決算書で示せないときは、金融機関が発行する預金残高証明書で示します。間違えやすいのは日付・金融機関・残高日の決め方の3つです。
日付は「残高日」で数える
残高証明書には「何月何日現在」という残高の日付が記載されます。この残高日が申請日前4週間(28日)以内であることが必要です。手引きには、金融機関が発行した日(発行日)ではないと注意書きがあります。発行日が新しくても、残高日が申請日の4週間より前なら条件を満たしません。
「主要取引金融機関名」とそろえる
申請書類には、取引のある金融機関を支店名まで記入する「主要取引金融機関名」という様式があります。残高証明書を使う場合は、ここに記入する金融機関と同一にするよう手引きで求められています。口座が複数あるときは、どの金融機関の証明書を使うかを先に決めて、様式の記入とそろえます。
残高日は申請できる時期から逆算する
残高証明書が証明するのは、残高日1日分の残高です。先に残高証明書だけを取っても、ほかの書類の準備に手間取れば4週間はすぐに過ぎます。郵送の事前チェックを使う場合は、書類が届いてから事前チェック完了通知書の発送までに概ね10日程度かかり、不備があればさらに延びます。
経管(経営業務の管理責任者)や営業所技術者等(旧:専任技術者)、社会保険などの書類の目途を先につけ、申請できる時期が見えてから残高日を決めるのが、日付切れを防ぐ順番です。4週間を過ぎてしまったら、新しい残高日の証明書を取り直すことになります。残高証明書の発行にかかる日数は手引きに書かれていないため、口座のある金融機関に確かめておくと安心です。
借入金・融資証明書は使える?
次の3つは、大阪府の手引きに扱いが書かれていない点です。
- 借入金を入れた口座……手引きが求めているのは500万円以上の預金残高証明書で、そのお金をどう用意したかについての記載はありません。
- 融資証明書……国土交通大臣許可の事務の取扱いを示した国土交通省の建設業許可事務ガイドラインには、資金調達能力の判断材料として取引金融機関の融資証明書も挙げられています。ただ、大阪府の手引きが確認書類として挙げているのは預金残高証明書です。
- 複数の口座の合算・口座の名義……複数の口座を合わせて500万円にする場合や、会社の申請で代表者個人の口座を使う場合の扱いは、手引きに書かれていません。
いずれもケースにより府の確認が必要です。また、この要件が見ているのは、請け負った工事をやり遂げるだけの資金の裏付けです。一時的な借入で残高をつくると、返済で資金繰りが苦しくなることもあります。無理のない方法を選ぶことをおすすめします。
更新・業種追加と許可後の扱い
一般建設業の5年ごとの更新では、③の「許可を受けて5年間継続して営業した実績」にあてはまるため、財産的基礎の確認書類は必要ありません。ただし、許可の有効期限が過ぎてから取り直す場合は新規の申請になり、①か②で確認されます。更新の手続きは建設業許可の更新のページで解説しています。
業種追加は、新規の許可を受けてから5年以内に申請する場合、あらためて①か②の確認書類が必要です。
許可を取ったあとに残高や自己資本が500万円を下回った場合について、大阪府の手引きには記載がありません。国土交通大臣許可の事務の取扱いを示した国土交通省の建設業許可事務ガイドラインには、この基準は許可をする際に判断するもので、許可の後に満たさなくなっても直ちに許可の効力に影響するものではないと書かれています。
特定建設業はまったく別の基準
元請として受けた1件の工事で、下請に出す金額の合計(税込み)が5,000万円以上、建築一式工事なら8,000万円以上になる場合は、特定建設業の許可が必要です。特定建設業の財産的基礎は、次の4つをすべて満たす必要があります。
- 欠損の額が資本金の20%を超えていない
- 流動比率が75%以上
- 資本金が2,000万円以上
- 自己資本が4,000万円以上
判断は原則として直前の決算期の財務諸表で行われ、一般建設業のような残高証明書による方法は手引きに挙げられていません。資本金は申請日までの増資で基準を満たす扱いがありますが、自己資本は財務諸表で満たす必要があります。また、更新や業種追加を含む特定建設業のすべての申請で確認される点も、一般建設業と異なります。
よくあるご質問(500万円要件)
Q500万円の預金がないと、建設業許可は取れませんか?
Q残高証明書は、いつの日付が必要ですか?
Q借りたお金を入れた口座の残高証明書でも使えますか?
Q設立したばかりで、まだ決算前の会社はどうなりますか?
Q個人事業主(一人親方)でも、同じ要件ですか?
許可の要件の全体像は建設業許可の5つの要件のページで解説しています。当事務所では、直前の決算書で足りるか、残高証明書で進めるかの見極めまでは無料のご相談でお手伝いしています(申請の報酬は報酬一覧をご覧ください)。こちらで取得できる書類は代行取得します。決算書や確定申告書の控えなど社内の書類と、金融機関に発行を依頼する残高証明書はご用意いただきます。直前の決算書のうち貸借対照表のページの写真をLINEで送っていただければ、そこから確認を始められます。